落書き その３
・空襲
「敵機、突入してきます！３時の方向！数、６機！」
報告を受けた駆逐艦の艦長はとっさに右舷側の海に視線を走らせた。その先
には、２機１組で海面すれすれを突っ込んでくる一式艦戦が４機いた。その全
ての機首はこちらを向いている。目標は彼の駆逐艦なのだ。
「各機銃！３時方向の敵機をくい止めろ！！」
だが、彼の命令は全く効果を上げなかった。帝国海軍屈指の防御力を誇る
（しかも海面すれすれという超低空を飛ぶ）一式艦戦をたかが駆逐艦の対空火
力で、しかも６機全てを、撃ち落すのは不可能であったからだ。
一式艦戦６機は、全機が無傷で１２センチ対艦ロケット弾の射程距離６００
０メートル以内に滑り込んだ。
「よし、撃てっ！」
命令と共に、主翼に吊るされた左右合計８発のロケット弾が一斉に点火し、
白煙を引き連れて駆逐艦に突進。無慈悲なまでの正確さで、全弾が命中した。
命中したロケット弾はまばたき１回分の間をおいて爆発、辺りに破壊を撒き
散らした。ロケット弾を構成していた部品は破片となって周囲にいた全ての柔
らかいもの（たとえば人間）を切り刻んだ。爆風と衝撃波は人間を吹き飛ばし、
さして頑丈ではない駆逐艦の構造物を破壊した。
この破壊が６機合計４８発ものロケット弾が命中した箇所全てで発生したの
だ。この破壊を、１つ１つをこと細やかに記しても意味がない。大まかに分け
て記していくと・・・
主砲：紙切れ同然の装甲を破って砲塔内部に突入したロケット弾の爆発で完全
破壊。直撃を免れた砲も、至近距離の爆発と破片の直撃で全て使用不能。
機銃：何の防護もされていないため直下の構造物への直撃、爆発でも破壊され
た。残存機銃０。
艦橋：複数のロケット弾が命中。艦長以下、艦橋要員全滅。また、爆発の余波
でレーダー、無線のアンテナが破壊され、使用不能に。
船体：水線下への直撃こそ免れたものの、直撃の影響で複数の破孔が発生。さ
らに、立て続けの直撃で、艦首側弾薬庫にロケット弾１発が直撃、誘爆
を引き起こし、艦首が切断された。
この他、ロケットの燃料が飛び散った影響による火災も発生していた。
これほどの打撃に耐えられるほど、この駆逐艦は頑丈に造られてはいなかっ
た。この艦は艦首からの浸水によって、少しずつ傾き始めた。
（こりゃ、ちょっと火力過多だなぁ。４機で十分だな）
攻撃隊を指揮する柴田大尉は、完膚なきまでに破壊され、沈もうとしている
駆逐艦を見てそう思った。
何しろ、標的となった駆逐艦４隻は、全て同じように全ての兵装が破壊され、
全艦火だるまとなり、沈もうとしていたからだ。これなら、もう少し部隊を小
分けにして多数の駆逐艦を狙った方が艦隊の防空網により大きな穴を開けるこ
とが出来る。