落書き その４
・性能試験（急降下爆撃編）
「こちら、２０２。現在、高度５５００。これより急降下爆撃試験を開始する。
搭載爆弾は５００キロ」
手短に報告すると、真田少佐は列機２機と共に機体を軽くひねってから降下
に入った。
彼の視界で海と空が急激に回った。続いて空が視界から消え、海で占められ
る。一式艦戦が急降下を開始したのだ。
「高度、５０００・・・４５００・・・４０００・・・」
高度計の針がくるくると回って、降下の勢いを真田に伝える。真田はそれを
淡々と読み上げる。
「１０００、機首上げ！」
この声と同時に一式艦戦はわずかに機首を上げ、それまで機銃用照準器に収
まっていた訓練用標的が機首の下に沈んで見えなくなった。だが、それでも真
田は全く気にせず、降下を続けた。これが正しい照準であることを知っている
からだ。そして、高度計の針が６００を回った瞬間、彼は叫んだ。
「・・・６００、投下！」
同時に爆弾投下用のボタンを押し込み、同時に操縦桿を思い切り自分に引き
付ける。爆弾が切り離される乾いた音と共に、機体の反応が軽くなり、機首が
急激に引き起こされる。が、それでも機体の沈降は続き、３機の一式艦戦は海
面すれすれまで舞い降りたところでようやく水平飛行を維持出来るようになっ
た。
３機とも無事に投下を終えた事を確認した真田は、標的を監視している曳航
船に問いかけた。
「おい、投下結果を教えてくれ」
『残念ながら全弾外れです。至近が２発。まぁ、爆撃照準器なしでやったにし
ては上等でしょう』
「全滅、か・・・やはり、爆撃照準器抜きでの急降下爆撃は無理か？」
『でしょうねぇ。いっそ、６０キロを複数とか、榴弾あたりを空中で爆発させ
るとかした方がいいかもしれませんね』
「その方がましだろうな」
『こだわらないんですね』
「こっちは空戦が本職だからな。爆撃にこだわりを持っても役にたたん」
『分かりました。とにかく帰還して下さい。検討はそれからで』
開発局から艦隊に派遣された研究員の軽い笑みを含んだ声を受けて、真田も
頷いた。
「了解した。これより帰還する」
彼はそう言うと、一式艦戦を帰還コースに乗せた。