松です。先日上げた「光の剣」のボツシーンです。
多分、他に転用する可能性もないので、事のついでに（おひ）
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「何だ？誰なんだ？」
答える義務などデアリングにはなかったが、あえて彼は名乗った。
『エンフィールド自警団、第三部隊部隊長、デアリング・デッキサイドだ。君
達をピュータスカジノ襲撃犯として逮捕する。そこを動くな』
そう言う間にも、デアリングは気配を殺して彼らの前方に出ようとしていた。
無論、進路を遮り由羅の家へ行かせないようにするためだ。
一方、男達の方は激しい動揺を抱えたまま、円陣を組んで周囲を警戒し始め
た。部隊長クラスの人間が１人で動き回っているとは思いもよらない彼らは、
かなりの数の自警団員に包囲されたに違いない、と誤解したのだ（無論、デア
リングはそう誤解することを狙って名乗ったのだが）。
だが、何の気配もない上に、包囲している（と彼らが思っている）自警団は
何もしてこない。こんな状態は精神的にかなりきつい。短気な１人が５分とし
ないうちに限界に達して、行動を起こした。
「ハッタリだ！何も仕掛けてこないじゃねぇか！さっさと行って、あのライシ
アンをとっ捕まえちまおうぜ！！」
勇ましく言い放って動こうとした。
直後、森の中から光弾が飛んできて、動こうとした男を直撃した。
「かは！！」
空気を吐き出すような声を漏らすと、男はのけぞり、そして崩れ落ちた。
「な・・・！？」
『動くなと言ったはずだ。次は手加減しないよ』
「あそこからだ。２人横手に回りこめ！」
１人だけ冷静さを保った男が、警告を無視して動揺する仲間達に指示を出す。
どれだけの人数で包囲しているか分からないが、こちらが動く事で少しでも揺
さぶり隙を作った方が活路を開ける、と判断したのだ。
指示を受けたおかげで多少の落ち着きを取り戻した他の男達は、指示通りに
行動を起こした。指示を出した男と他の２人の合計３人がその場で光弾が飛ん
できた方向に発砲する。残る２人は大きく迂回しながら姿を隠している敵に接
近を図る。
この状況に、デアリングはわずかばかりだが、意外に念を禁じえなかった。
（ハッタリを見抜いたわけでもないのに、突っ込んでくるか・・・ちょっとあ
てが外れたな）
デアリングとしては、包囲されたと思い込んだ男達がその場に留まっている
間に彼らの前に出て、投降勧告を行うつもりだったのだ（投降すればそれでよ
し。投降しなかったとしても、魔法攻撃を四方八方から浴びせて全滅させる自
信があった）。
ところが、彼らは包囲を強引に突破しようと積極的に行動を起こしてきてい
る。この状況で何もしなければ、「包囲」が単なるハッタリであると気付かれ
てしまう。気付かれると、彼らは由羅の家に直行するであろう。
そんな状況を阻止するには、別の方向から攻撃して、彼らが包囲されている
と思い込ませ続けねばならない。
「〈ルーン・バレット〉」
デアリングは呪文を詠唱すると、発砲してくる男達の背後に数発の火の玉を
出現させ、彼らに向けて放った。
「うわっ！？」
いきなり背後から攻撃され、彼らは慌ててその場に伏せた。おかげで、２人
までは直撃を免れたが、最後の１人だけは伏せるのが遅れ、合計２発の〈ルー
ン・バレット〉が直撃。内１発が顎に命中した結果、彼はあっけなく気絶して
しまった。
「ちっ！後ろを牽制しろ！」
「おう！！」
伏せたまま、一人が〈ルーン・バレット〉の飛んで来た方向へ向き直り、牽
制射撃を始めた。そして、もう１人が光弾が飛んで来た方向への射撃を再開す
る。
だが、ほんのわずかな間とはいえ、射撃を中断したため、すでにデアリング
は移動を終えていた。細い道の側の木陰、それが彼の移動先である。牽制のた
めの射線からは大きく外れているので、銃弾が飛んで来る心配はない。迂回し
ている２人に見つかる可能性はあるが、まずは安全地帯と言える。
「ふう・・・さて、やるか」
魔力銃の銃尻に設けられた動作指定用のダイアルを、特大とりもち弾発射に
セットする。続いて、ひたすら存在しない敵に対して牽制射撃を加え続ける２
人に、銃口を向ける。
（よし）
そして、おもむろに引き金を引こうとした時、迂回してきた２人がデアリン
グの姿を視界に捉えた。
「おい！いたぞ！！そっちを狙っている！！」
「何！？」
警告の叫びと驚愕の叫びが立て続けに起こり、さらにデアリングに銃口を向
けようとする。だが・・・
「遅い！」
デアリングの声と共に魔力銃の引き金が引かれた。続けて魔力の塊である光
弾が銃口から飛び出し、今まで牽制射撃をしてきた２人目がけて飛んでいく。
それは、徐々に大きく、そして粘り気のある物体へと変化し、２人に襲いかか
った。
「うおっ！？」
男達は驚きの声を上げた。彼らは、その物体−要はバカでかいとりもち−か
ら逃れる術もなく、ただ絡め取られ、地面に引き倒された。何とか抜け出そう
ともがくが、とりもちの粘度は高く、身動きさえままならないありさまである。
ただ、どういうわけか口や鼻を覆っていても呼吸だけは阻害されないので、窒
息の心配だけはしないですみそうであった。
２人がとりもちに絡め取られている間に、迂回した２人がデアリングに向け
発砲を開始した。彼らは気付いてなかったが、この戦闘で初めてデアリングの
姿を確認した上での攻撃あった。
銃弾がデアリングへ向け飛んで来る。彼はそれを木を盾にして防ぐ。
「さて、仕上げと行きますか」
再び魔力銃のダイアルを操作すると、注意深く木陰から顔を出して相手の位
置を確認する。途端に銃弾が集中、デアリングは素早く顔を引っ込めた。しば
らく待つと、弾切れになったらしく銃撃が止んだ。
その時、デアリングは動いた。先ほど顔を出した側とは反対方向に飛び出し、
魔力銃を構える。この方向に出てくるとは予想外であったのか、１人が無防備
な側面をさらしていた。無論、この好機を逃す理由はない。デアリングは狙い
をつけて発砲した。魔力銃から放たれた光弾は、銃口の動きに応じて進路を変
える。そのおかげもあって、正確に男のみぞおちに直撃した。
「ぐっ・・・」
直後、ハンマーで殴られたような衝撃を受け、男は「く」の字に身体を折っ
た。続いて派手に吹っ飛ばされたときには、すでに白目をむいて、気絶してい
た。
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それでは、こんなところで。