神姫のいる光景　名付け

「まいったな、これは」
　男はFront Line社から送られてきたものを見て、 ため息と共に呟いた。
　送られてきたものは、４体の神姫。
　発売前の最新型であるオールベルン、ジールベルン、オールベルン・ガーネ
ット、ジールベルン・サファイアである。
　発売前のモニターとして送られてきたものだ。
　まぁ、モニター自体は問題ではない。今までも彼にはモニターの経験がある
からだ。
　問題は別にあった。
「こんなに似た名前の神姫を一度に渡されて、どんな名前を付けりゃいいんだ？」
　このぼやきを耳にした彼の神姫達は、ひどく楽しそうに好き勝手な軽口を叩
きあった。
「まー、あれじゃない？ボク達にタイプ名をもじっただけなんて安直な名前を
付け続けた報いじゃないの？」
「積悪の報い、というやつだな」
「積悪とまで言うか」
　くだけた雰囲気のストラーフタイプのスー、ストイックな雰囲気を身にまと
うストラーフｍｋ２タイプのスーニー、それぞれの発言に、男はしかめっ面し
て言い返す。もっとも、「ストラーフタイプの頭から持ってきた」という命名
理由のスー、「ストラーフタイプの２番目だから」という命名理由のスーニー、
この２人のマスターである彼にも、多少の自覚はあるらしく、それほど強い調
子ではなかった。それでも、一方的に言い負かされる気はないらしく、何とか
言い返す。
「大体、お前らだってその名前、嫌じゃないだろうが。変えてくれ、と言われ
た覚えはないし」
「当然です。マスターがちゃんと考えて付けてくれた名前を変えてくれなんて、
言うわけないじゃないですか」
「例え、どんなに安直でも、考えたという事実まで否定しないです」
　アーンヴァルタイプのヴァルとアーンヴァルｍｋ２タイプのアーニー、双子
のように似た２人がそれぞれフォローなのか追い討ちなのか、微妙に判断に困
る発言をした。
「安直なのは否定しないのか・・・」
　ちょっと落ち込む彼に、「黒いアーンヴァルタイプだから」という理由で名
づけられたアーンヴァルタイプＶｅｒ．ｂｋ（カラーバリエーション、黒の意）
のクヴァルは、苦笑しつつも行動を促した。
「マスター。とにかく、彼女達に名前を考えてやってください」
「ああ、そうだな。・・・ちょっと１人で考えるから時間くれ」
　そう応じると、彼は本棚からネーミングに関する本を引っ張り出した。
　そして付けた名前は・・・
オールベルン：レウコン
ジールベルン：メラン
オールベルン・ガーネット：エリュー
ジールベルン・サファイア：キュアノ
　というものであった。
　いずれもギリシャ語で白、黒、赤、青（順に、レウコン、メラン、エリュト
ロン、キュアノエイデス）を元に命名したものだ。無論、その理由はそれぞれ
の外見色。それをいくつもの言語に置き換え、一番サマになりそうなものを選
び、それらしく聞こえるようにいじったのだ。
　機種名をそれらしく聞こえるようにいじっただけ、のそれまでに比べれば、
多少手間がかかっていると言えるかもしれない。
「それでも、安直だと思うけどね〜」
「ほっとけ」
　夢魔型ヴァローナタイプのローナの間延びした突っ込みに、男は憮然とした
声で言い返した。
　そんな２人の間に、天使コマンド型ウェルクストラタイプのルクスが入った。
「ま、まぁ、いいじゃないですか、マスターのネーミングセンスの事は。それ
より、問題は姉様達です」
　そう言ってルクスが２人の意識を切り替えさせた。
　２人がルクスの指さす方向に目を向けると、そこにはひざを抱え、顔をうつ
むかせて座り込むヴァルとアーニーの姿があった。
「私よりこった名前・・・」
「私も新型なのに・・・」
　どうやら、オールベルン以下の新型に「機種名をそれらしく聞こえるように
いじっただけ」ではない名前を与えた事がよほどお気に召さなかったらしい。
「あの・・・私達の名前も、それほどこった名前ではないのですが・・・」
「色をそのまんま、とかだもんねぇ」
　オールベルンタイプのレウコンが困惑の色もあらわにしながらも言えば、カ
ラーバリエーションであるオールベルン・ガーネットのエリューが頭の後ろで
手を組みながら、暢気な口調で付け加える。
　ジールベルン・サファイアのキュアノにいたっては冷淡ですらあった。
「マスターも名付けの経験を積むのだから、後発である私達の名付けのレベル
が上がるのは当たり前。ましてや、あなた方との性・・・」
「単に機種名が似ているからこうなっただけ。私達の性能は関係ない。マスター
の経験も」
　自分の性能自慢に走り始めたキュアノの口を、ジールベルンタイプのメラン
はまったく表情を変えずに手でふさぎ、そして淡々と自分の意見を述べた。
　そんな新人４人の様子に、男は憮然となった。
「当人の前で言いたい放題だな、お前ら」
「だって、そんなにこった名前じゃないでしょ？私はこの名前、好きだけどさ」
「エリュー、マスターに失礼でしょ」
　いたってあっけらかんとした口調で言い返すエリューを、レウコンはたしな
める。が、その隣のメランは、ヴァルとアーニーを見ながら言葉を紡いだ。
「でも、あの２人がそのことで落ち込んでいるのは事実」
「早く何とかしてください。でないと、私達の性能を見てもらえません」
　と、キュアノが主張する。本音がただ漏れだが、モニターという役目の事を
考えればもっともな主張であった。だから、男は苦笑しながらも行動をおこし
た。
「はいはい、っと・・・」
　言葉と共に、ひょいと２人のアーンヴァルタイプ神姫を拾い上げる。
「ひゃわっ！？」
「ひあっ！？
　突然持ち上げられて驚きの声を上げる２人に構わず、そのまま腕で抱え込ん
だ。
「じゃ、ちょっと３人で話し合いをしてくるから、皆、しばらくこの部屋で待
機するように」
「りょうかーい。新人さん達の相手はちゃんとやっておくから、ごゆっくり〜」
　男の宣言に、スーはノンビリした口調で請け負った。
　そして、男はリビングへと向かった。

　その後、彼の説得により２人は機嫌を直した。
　もっとも、そのために費やした時間は半日にもおよび、彼の予定が大幅に狂っ
たのは言うまでも無い。

　名付け。それはどんな名前を付けるにしても、大事なのであった。

　ＥＮＤ