暴走紅葉伝

主要登場キャラ

　　　暴走紅葉伝

「紅葉、敦盛殿のことって、どう思ってるの？」
「えっ？」
　突然の九羅香の問いに、紅葉は目を丸くした。当然だろう。いきなり敵であ
る平家側の人間をどう思うか、などと聞かれれば。
「あの・・・九羅香様、何故、そのような事を？」
「ん？ああ、ほら、この間の合戦で敦盛殿と戦ってから、ちょっと元気がない
　気がしたからさ。もしかしたら、戦いづらいのかな？って・・・気にしてい
　るような感じもあったし（←義経歴史講座第６幕参照）・・・」
「そんなことはありませんよ」
　心配そうな九羅香を安心させるように、紅葉は明るい表情で応じた。
「確かに、都に来る前までは綺麗な笛の名手と言う事で興味がありましたが、
　実際はああいう方だったわけですし・・・」
　一騎打ちを申し出ながら包囲殲滅を図り、さらには孤児や難民の集まる寺を
妖魔を使って襲撃した敦盛である。紅葉が好意を抱くべき理由など、どこにも
ない。
　だが、ここで意外な一言を付け加えた。
「ですが、好き嫌い、というものとは別の点で気になるといえば気になります」
「あ、そうなんだ。じゃあ、全くの無駄ってわけでもなかったんだ」
「は？」
「弁慶、連れてきてくれる？」
「おう」
　１８０センチに達する長身の弁慶が、その巨体にもかかわらず軽快な動きで
姿を見せた。左手には、後ろ襟をつかんで、敦盛を猫のようにぶら下げていた。
「失礼な人ですね！人を猫のように扱って！」
「いや、猫の方が扱いは丁寧だな、オレは。猫はちゃんと抱き上げて運ぶし」
「な！？わたくしは猫以下ですか！！もっと失礼ですね！！」
「あー、うるせぇ」
　面倒くさそうに顔をしかめた弁慶は一言言い捨てると、手足を縛られながら
も暴れる敦盛を放してやった。
「あっ！？」
　いきなり放された敦盛は、着地することも受け身をとることも出来ずに床に
叩きつけられた。
「あの・・・これは一体・・・？」
　目の前の事態についてゆけず、紅葉は九羅香に視線を向けた。
「ん？ああ、もしかしたら敦盛殿と引き合わせたら、少しは元気になるかなー？
　って思ったんだけど？」
　あっさりと答えられて、紅葉は困惑気味に視線の意味を説明した。
「いえ、そういうことではなく・・・どうやってこの方を連れて来られたのか、
　という意味なんですが・・・」
「えーっと・・・それは・・・」
　答えづらそうに視線を明後日の方向に向ける九羅香に変わって応じたのは、
敦盛を押さえつけている弁慶であった。
「そりゃ、こいつが俺達の頼みを素直に聞いてくれるわけないし、九羅香もオ
　レも単身忍び込むのは慣れたもんなんだから、言わずもがなって気がするけ
　ど？」
「・・・つまり、そういう事なんですね？」
　疑問の形で確認した紅葉は、九羅香の無茶にため息をついた。

　同時刻、平家軍、本陣
「おのれ、義経！弁慶！ふざけた真似をしおって！！」
　猛将として名を馳せる教経は、怒号と共に書置きを持つ手に力を込めた。そ
のまま破り捨てられるかと思われた書置きは、その直前に絶妙のタイミングで
廉也の手により救い出された。
「『ちょっとお借りします　義経』・・・これは一体どういう意味なのでしょ
　うか？」
「うむ・・・これだけでは断言できぬが、敦盛が妖魔を使いこなすのでその点
　を追及する気なのかもしれん」
　平家の頭領である知盛は、腕を組んだままそう応じた。常識と良識に富んだ
この男に「部下を元気付けるため敵将をかっさらった」などという無茶苦茶な
結論を出せというのは、はっきり言って酷というものであった。この場合、非
常識なのは現実の方なのだから。

「ま、まぁ、そういうわけなんだけど、どうかな？」
「はぁ・・・そういう事でしたら、ありがたくいただくことにします」
　強引に話題を戻す九羅香に、紅葉はため息をつきつつ応じた。
　こんな、自分の意思を無視された「贈り物扱い」に、敦盛が納得できるわけ
がない。思わず声を荒げた。
「ちょっと！お待ちなさい！！」
　抗議の声を上げたが、誰１人として取り合わない。そのまま紅葉の手で奥へ
引きずられていった。
「なぁ、紅葉のやつ、どうする気なんだろうな？」
「んー、まぁ、これで元気になってくれるなら、敦盛殿をどうしたっていいん
　だけど」
　わりと非情の発言を、九羅香はさらりとしてのけた。その直後、
「があああああっ！！」
　という盛大な悲鳴が辺りに響き渡ったかと思うと、奥からあちこち切り傷や
ら鉾で突かれたらしい傷を作った敦盛が飛び出してきた。
「お待ちなさい！！」
　続けて鉾を手にした紅葉が飛び出してきた。そのまま敦盛に追いすがると、
鉾を一振りして相手の足元を払う。
「逃がしません！あなたと戦った時のあの手ごたえ、完全に我が物として腕を
　上げるまで、わたくしの練習台になってもらいます！！」
「ま、待ちな、ぐあっ！！」
「ああ・・・この手ごたえ、これです・・・この手ごたえを確実に得られるよ
　うにしなくては・・・」
　多大に問題があるものの向上心の現われと言えなくもない発言は、すぐに怪
しいシロモノに成り果ててしまった。
「ちょ、ちょっと待・・・！」
「ふっ・・・ふふふ・・・うふふふふふ・・・」
　不気味な笑みを浮べた紅葉は、据わった目付きで敦盛を刺し始めた。
「ふふふ・・・痛いですか？痛いでしょう？あなたはこんな痛いことを子供た
　ちにしようとしていたんですよ」
　ザクザクザクッ
「ぎゃああああっ！や、やめっ・・・！？」
「うふふ・・・泣きわめいて謝りなさい！そしたら考えてあげます！！」
　どこか恍惚とした表情の紅葉は、嬉々としてそう言い放つと、さらに力を込
めて敦盛を刺し貫いた。
「ぎゃああああっ！だずげでーーーっ！！」

「・・・紅葉の奴、色々と鬱憤が溜まっているんだなぁ」
　そんな光景をどこか遠い目で見つめる弁慶の呟きに、九羅香もまた明後日の
方向を見ながら応じた。
「まぁ、紅葉の鬱憤が晴れて元気になるなら、敦盛殿の１人や２人、犠牲にな
　ったっていいよね？」
「まあな、どーせ敦盛だし」
　恐ろしく非道な台詞をさらりと交し合う２人。思うところは同じであった。
（紅葉を怒らせるのだけは、絶対に回避しよう）
　実に適切な判断である。

　終わり・・・にして下さい。

　後書き

　またひどいＳＳを；
　えー、タイトルそのままな、暴走紅葉さんを書きました；

　大本は義経歴史講座～第６幕～で敦盛のところでの紅葉のリアクション、
ちょっと珍しい反応を返したので、その点を暴走させてみました。
＃一応、女王様モード発動な紅葉って感じなんですが・・・雰囲気、出てます？(^^;

　さて、次の義経ＳＳは多少（かなり？）はまともなノリ・・・というかいつ
ものノリで書きます。
＃今現在、書いているらしい；

　よろしければ、そちらもお付き合いください。

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　松