確認

主要登場キャラ

　　　確認

「ふう・・・いよいよ明日、か・・・」
　鎌倉から少し離れた館の縁側で、弁慶は大きく息をついた。
　夜が明ければ、鎌倉になだれ込みで、頼朝相手に戦いを挑むことになる。
　本来であれば、戦いに備え寝ておくべきなのだが、何となく寝付けずに夜空
を見上げていたのだ。そんな彼に声がかけられた。
「弁慶、お前も起きていたのか？」
「ん？ああ、与一か。お前もか？」
　庭の散策でもしていたらしい与一に、弁慶が肯定を兼ねた問いを返す。
「まあな。本当なら、きちんと寝ておかなくてはいけないと、分かっているん
　だがな」
　そんな風に応じる与一の背後に月がかかった。
（あ・・・）
　それによって生み出された光景に、弁慶は声をなくした。一種幻想的な美し
さに、見とれたのだ。が、その直後に、言い様のない不安を感じた。
（ここにいる与一は、本当は幻なんじゃないか？）
　それは、いつもなら馬鹿馬鹿しいと一蹴したであろう不安である。だが、政
子の玄武黒呪殺で一度は死んだ彼女の、こんな幻想的な姿を見てしまうと、そ
の不安を抑えられなくなった。その不安に突き動かされるまま、弁慶は与一を
抱き寄せた。
「なっ、何をする、弁慶！？」
「・・・与一は、ちゃんとここにいるよな？」
　突然の行為に思わず抗議する彼女に、弁慶はそんな問いを返した。
「え？」
「幻だったりしないよな？」
　この一言で、与一は弁慶の行動の原因を理解した。同時に、苦笑と共に何と
も言いがたい感情が沸き起こる。呆れと言えなくもないが、呆れよりははるか
に温かく包み込むような感情であった。
「まったく、しょうがない奴だな。ほら」
　彼女は苦笑混じりに呟くと、抱き付く、というより怯えてしがみつく、と言
った方が正しそうな弁慶の頭を自分の胸元に押しつけた。
「え？」
　ある意味において、非常に大胆な与一の行動に、弁慶は虚をつかれて不安を
含めて一切の思考が止まってしまった。だが、かえって五感にもたらされる感
覚ははっきりと捉える事が出来た。それは与一の胸の柔らかさと温もり、そし
てこれが何より重要であったであろうが、彼女の心音であった。
（あ・・・）
　これらの感触と音に、彼の不安は急速に消えていった。
「聞えているか？」
「ああ・・・」
「この音が、私がここに存在している、確かな証だ。だから、そんなに不安に
　なるな」
　その言葉が、彼の不安を完全にかき消した。彼はそんな与一に頷いた。
「ああ」
　そして、今まで力の限り抱きしめていた腕を緩め、代わりとばかりに頭を、
というより耳を、さらに強く彼女の胸に押しつける。
「なあ、もう少しだけ、こうしていていいか？」
「ああ・・・お前が落ち着くまで、つき合ってやろう」
　意外なほど落ち着いた、優しい声で与一は頷いた。
　いつもの彼女であれば、「甘えるな」の一言と共に容赦なく引き剥がしたで
あろう。訳もなく（与一から見ればそうなる）怯えてしがみついてくる弁慶を
見ても、何故かそんな気持ちにはならない。それどころか、愛しいという気持
ちすら湧いてくる。
（どうしてなんだろうな）
　彼女自身、不思議であった。だが、すぐに答えは出た。
（ああ、つまり・・・）
　自分は、こんな姿を弁慶が見せても愛しく思うほど、彼を愛しているのだ、
と。

　弁慶は相手がちゃんとそこに生きて存在している事を、与一は相手に対する
愛情の深さを、改めて確認したのだった・・・

　終わり

　後書き

　松です。「確認」をお届けします。

　初の少女義経伝　弐ＳＳです。（掲示板に落書きを書きましたが、あれは発
売前のやつですし）

　ネタとしては、政子の玄武黒呪殺で死んだヒロインに、根拠もなく不安を覚
える、というやつです。
　やっぱり、死んだ人間が生き返ったからと言って、完全に安心出来るかとい
うのは難しいかと。普通、人間、死んだらそれっきりですから。

　与一なのは、１ｓｔプレイクリア時のヒロインが彼女だったから。
　本当なら、九羅香か紅葉辺りの方が様になるかもしれませんけどね；

　それでは、こんなところで。

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　松