ＷＡＲＮＩＮＧ！
ＷＡＲＮＩＮＧ！
ＷＡＲＮＩＮＧ！
このＳＳはティカに関するネタバレとなっております。
お読みになる方はティカＥＤを一度ご覧になるよう、お願い申しあげます。
ＷＡＲＮＩＮＧ！
ＷＡＲＮＩＮＧ！
ＷＡＲＮＩＮＧ！
（ヤガランテごっこ・・・何やってんだか；）
旅立ちの朝
『ジェナス・・・』
忘れようもない声の呼びかけに、彼はベッドの上で跳ね起きた。そんな彼の
視界に写るのは見慣れた自分の部屋。別に誰かいるわけでもない。それで彼は、
今の呼びかけが夢の産物であることに気がついた。
「はぁっ」
大きなため息を１つ。そして、片手で顔の半分を覆いつつ呟く。
「・・・未練がましいよなぁ・・・」
彼の言う「未練」の対象は、ティカ・ネドラン。半年ほど前までは最も好感
を覚える友人で、今ではウェイダムの王女となった少女である。
彼女がウェイダムの王女になるまでには、様々な経緯があった。その経緯の
中で、ジェナスは自分が彼女にどんな想いを抱いているか気づいた、気づいて
しまった。
それが、彼の未練の始まりとなった。王女となったティカに、単なる「信頼
されている友人」の彼が、そう側にいるわけにはいかなかった。さらに、彼の
持つ魔術師、あるいは魔物ハンターとしての力は、彼女が王女になる過程（あ
るいは原因）で発生した様々な内政、外交問題の解決の助けにはならないもの
だった。
彼女に会えない、彼女の力になれない。その事を感じるようになるにつれ、
彼はどうしようもない寂しさとやるせなさを感じるようになっていった。結局、
彼は彼女への気持ちを整理できないまま、ルフタール首都、エルダムにある魔
導学院に復学した。
復学直後のジェナスを見たとき、一緒に帰ってきたミックを除く魔道探求会
のメンバーはひどく驚いた。いつもの闊達さはかけらもなく、心ここにあらず
といった状態では、当然かもしれないが。
その後、多少の立ち直りを見せたものの、ティカへの想いを整理しきれてい
ないジェナスは、彼女と再会する夢を見るようになったのだった・・・。
「今日はもう卒業式だってのに・・・」
自嘲混じりに呟いて、外を見る。夜の闇を、水平線の下にいる陽の光が追い
払い始めていた。
「・・・寝直したら、遅刻するな・・・」
諦めの一言をもらして、彼はベッドから抜け出した。卒業式に、遅刻するわ
けにはいかないのだ。
卒業式はつつがなく終了し、卒業生は卒業証書を手に教室へと引き上げてき
た。ジェナスもきっちりしめたネクタイを緩めつつ、自分の席に戻る。最後ま
で残してあった私物を取り出すと、その中に真新しい封筒が混ざっていた。宛
名には「ジェナス・ルークレイド様」とだけあり、差出人の名前は書かれてい
ない。その上、筆跡で正体がばれるのを恐れたのか、書き取り練習のような癖
のなさすぎる字である。
（誰だ？一体・・・？）
「おい、ジェナス！打ち上げに行くぞ！」
頭をひねっているところへ、ついに切れなかった「腐れ縁」のべスタが声を
かけてきた。打ち上げと手紙、どちらを優先するかジェナスは迷ったが、一瞬
後に断を下した。
「悪い、先に言っててくれ」
手紙優先。打ち上げは、少々遅れてもいいだろう。彼の回答に、べスタは軽
く肩をすくめて承諾した。
「わかった、場所はサヴォールだぞ」
「ああ」
１つ頷くと、彼は手紙に意識を集中した。
（さて、と・・・いったい誰だ？）
封を切り、中の便箋を取り出し視線を走らせると、見覚えのある字がそこに
あった。
『せんぱい、卒業おめでとう。伝えたいことがあるので、
校庭の木の下で待ってます。
マーシャより』
一通り目を通したジェナスは、無言で天井を仰ぎ見た。全く心当たりがない。
とはいえ、無視するわけにもいかないのだが・・・
（いったい何だろう・・・とにかく行ってみるか）
そう決断すると、彼は荷物をまとめて教室をあとにした。
校庭にある一本の木。ほどよい木陰を作るこの木は、昼寝の場所
に、待ち合わせの目印にと親しまれている。今、そこには手紙通り
にマーシャが待っていた。
「マーシャ！」
「ごめんなさい、せんぱい・・・わざわざ呼び出してしまって・・・」
ジェナスの呼びかけに、彼女はいつもの笑顔を見せなかった。
「いいさ・・・で、伝えたいことって？」
「実はマーシャ、せんぱいのことを・・・」
思い詰めた表情のマーシャ。それ表情と相まって、ある種の期待を抱かせる
には十分な言葉であった。ティカという「想い人」がいるジェナスでさえ、一
瞬ながら焦りを覚えた。が・・・
「・・・なあんてね」
不意にいつもの、茶目っ気を感じさせる笑顔を浮かべると、彼の顔をのぞき
込むようにしながら問いかけた。
「ドキドキしました？」
「おいおい、からかうなよ・・・」
微かな苦笑を口の端にたたえて、肩をすくめるジェナス。言外に「そういう
冗談に乗れる気分じゃないぞ」と言っている。そんな雰囲気を感じ取ったのだ
ろうか、マーシャも真面目な表情になって話題を切り替えた。
「ほんとはですね、せんぱいにとって、すっごく大切な話なんです」
「えらく引っ張るんだな・・・早く教えてくれよ」
ジェナスが先を促す。
「あのですね・・・ティカ先輩の事なんです」
「ティカの！？」
途端に、ジェナスの目の色が変わった。何かに駆られたかのように話そうと
するが、それより早くマーシャが話し始めた。
「ティカ先輩からの伝言です。『私が一番好きな場所に来てくれ』だそうです」
「そこに・・・ティカがいるのか？」
「ないしょです」
茶目っ気を込めた笑顔を作ったかと思うと、すぐにうつむいて続けた。
「・・・じゃあ、せんぱい・・・さようなら」
「あっ、おい、マーシャ？」
言うが早いか校門へと駆け出した。ジェナスが止める暇もない。あっという
間の出来事だった。
（行っちゃったな・・・）
１つため息をつくと、ジェナスもまた走り出した。ティカがいるとは限らな
い。だが、ティカに関係する何かがある。彼にとって、それだけで十分だった。
『私のとっておきの場所・・・』
一度だけ「誘う」事の出来た夏祭りで、ティカはそう言った。「場所」とい
うことで彼女が話したのは、後にも先にもこの時だけ。ここにいなければ、彼
に心当たりはない。思わず不安が口をついて出る。
「ここに・・・いるんだろうか・・・」
だが、一瞬後に、強く頭を振り、不安を覚える自分に言い聞かせた。
「いや、いるはずだ！」
魔導学院から街外れの牧場まで、無謀にも短距離走のペースで走り抜けたジ
ェナスは息を切らせていた。だが、呼吸が整うのを待ちもせず、急な斜面を駆
け上る。
（くそっ、足が取られる）
斜面の柔らかい土が、ジェナスの身体を支えきれずにはがれる。どだい、息
も整えずに登ろうというのが無謀なのだが、そんな事に気を回す冷静さは今の
彼にはない。ただ、遮二無二駆け上がり続けた。
そして・・・駆け上がり、上がりきった。
呼吸困難一歩手前の状態になりながらも、丘にたたずんでいた人を見いだし
た。白のシャツと乗馬用の青いズボンという、いたってシンプルな服装のその
人物は、彼の姿を見て喜びと懐かしさに微笑んだ。
それはジェナスも同じだった。なのに、その感情を口に出せずにいた。単に
息が苦しいだけでなく、あまりに大きすぎる感情が彼の喉に詰まってしまった
ようであった。
それを見て取ったか、風に短い髪を揺らしながら、相手が口を開いた。独り
言のようにも、ジェナスに話し掛けるようにもとれる声で。
「結局こっちに来ちゃった・・・」
「ティカ・・・」
ジェナスは、ようやく相手の名前を口にした。呼ばれた方は、照れくさそう
な、嬉しそうな表情でジェナスの声に含まれる疑問に答えた。
「側にジェナスがいない・・・そう気付いたら、いても立ってもいられなくて
・・・それで、こっちに来ちゃった・・・」
「俺も・・・戻ってきても、ティカがいない生活がとっても虚しかった・・・」
ティカの素直な言葉に、ジェナスも自分の気持ちを素直に口にした。
「会いたくて、話したくて・・・しょうがなかったよ・・・ずっと・・・」
「そうだったんだ・・・」
ティカは、何かほっとしたように呟く。ジェナスは、そんな彼女を見ながら
苦笑混じりに言った。
「ああ・・・２人とも同じ思いでいたわけだ」
「そうだね」
「間の抜けた話だよな。会えなくなってから、一緒にいないと駄目な事に気付
くなんて・・・」
「うん・・・でも、気付いたから・・・だから、一緒に行こうよ、ジェナス。
２人で、一緒に・・・ずっと離れないように・・・」
そう言って差し出されたティカの手。それを握る代わりに、ジェナスは意外
に小柄な彼女の身体を抱きしめた。
「ああ、行こう。一緒に・・・」
突然の行動に、最初の内こそ戸惑っていたティカだが、その一言に安心した
らしい。緊張を解き、彼の背中に腕を回した。
そうやって抱き合っていると、不意に森の方から声がかけられた。
「無粋な真似をして大変申し訳ないのですが・・・」
突然の声に驚いて振り返ると、そこに２人の共通の知人がいた。
「フォスター！」
「精悍」と「険しい」、どちらにも取れる鋭い顔つきの男は、ゆっくりと２
人の前に進み出ると、２人に軽い会釈を送った。
「お久しぶりです、ジェナス殿」
「あ、ああ・・・」
どう返したものか分からず、ただ頷くジェナス。その隣で、ティカが「あち
ゃー」と言わんばかりの表情で、額に手を当てつつ空を仰ぎ見た。
「もう、追いつかれたのか・・・」
「追いつかれたって・・・おい、ティカ、まさか！？」
「書き置きくらいは残しておいたよ。ちゃんと弟に任せるって・・・弟も引き
受けてくれたし・・・」
疑惑のまなざしを向けるジェナスに、ティカは珍しく子供じみた抗弁を見せ
る。そんな彼女に、フォスターは珍しく、ため息混じりの声を出した。
「国印をああいうものに使われるとは思ってもみませんでした・・・」
「フォスターさん、もしかして、ティカを・・・」
連れ戻しに来たのか？いくらかの恐怖を込めて問いただす。フォスターはそ
のジェナスの問いに直接は答えない。彼は黙って一枚の紙を差し出した。
「ティカ様、これにご署名を願います」
「だから、私は・・・」
断ろうとしたティカの口が止まった。差し出された紙が、公文書や勅令に用
いる、上質な紙であることに気付いたのだ。ある疑惑を感じてその紙に書かれ
た文字を読み進むうちに、彼女はその希望混じりの疑惑が正しい事を確認し、
愕然となった。
「フォスター、これは・・・」
「お読みの通り、退位宣言書です。あの書き置きも直筆の署名と国印が押され
ているので公文書として使えますが、一応、体裁は整えなくてはなりません
ので」
いつもと同じ、鋭い知性を感じさせる表情で説明し、羽根ペンを差し出す。
「構わない・・・のか？」
退位しても、そんな彼女の問いかけに、フォスターは肩をすくめてみせた。
「お止めしようにも、ああもたやすく城を抜け出される方が相手ではどうにも
止められません。それに、この一ヶ月間のティカ様の憂鬱を見ておりますの
で・・・」
「すまない」
感謝を込めて言うと、ティカは手早く署名した。続けて、本人照明のために
保護の呪文をかける（魔力の質というものは１人１人違うため、調べる事で誰
がかけたか特定できる）。署名の入った宣言書を受け取ったフォスターは、問
題ないことを確認して、それを筒の中に収めた。続けて、彼はジェナスに向き
直って深々と頭を下げた。
「ジェナス殿、ティカ様をお願いします」
「あ、ああ。ありがとう」
「それでは、私はこれで。お二人の前途に幸多からん事を」
一礼して、悠然と丘を下っていくフォスターの後ろ姿を、２人は黙って見送
った。その姿が小さく、そして見えなくなった頃、ティカはジェナスに問いか
けた。
「ジェナス・・・」
「ん、何？」
「あのさ・・・私と一緒にいると、王女だったって事で危険な目にあうかも知
れないけど・・・それでもいてくれるか？」
どこか不安げな、すがるような表情。そんな表情の彼女の肩を、ジェナスは
黙って抱いた。
「惚れた弱みかな・・・」
「え？」
「ティカといて危険な目にあうよりも、ティカの側にいれない方が、よっぽど
恐い」
婉曲的な事この上ない発言だが、その真意は伝わった。思わず彼の顔を見つ
めるティカ。そして、彼はあえて陽性の大声をもって続けた。
「それに、だ。そんな事にいちいちビビるくらいなら、あの時ウェイダムまで
ノコノコついていったりするもんか！」
それとも俺じゃ頼りないか？そう問いかけるジェナスの瞳を見て、ティカは
ようやく自分の中の不安を吹っ切れたらしい。安堵して、ジェナスの肩に頭を
預ける。
しばらくそうしていたが、不意に何かに気付いたらしい。悪戯っぽく瞳を輝
かせ、ジェナスに向き直った。
「なぁ、ジェナス。さっき『惚れた弱み』なんて言っていたけど、それって何
の事なんだ？」
ジェナスの身体が目に見えて硬直した。一直線に見つめてくるティカの視線
から顔をそらす。
「口に出てたのかよ・・・」
思わず呟くと、ティカが楽しげな表情で回り込んで来る。
「出てたよ。ほら、早く言えよ」
「・・・お前、性格変わってないか？」
そんな事を言ったり、顔をそむけたりして、しばらく抵抗していたジェナス
だが、最終的には観念せざるおえなかった。
「分かったよ、言うよ」
「ああ、早く言いな」
何かを期待するかのようなティカ。そんな彼女に前で、ジェナスは大きく深
呼吸する。
「・・・ティカ、俺は、お前の事が・・・好きだ・・・」
一言一言、確認するかのようにゆっくりと、だが、はっきりとした口調で告
白した。
「ありがとう・・・」
それに対して、ティカは嬉しそうな笑顔と共にそう言った。ジェナスの手を
握りしめようとしたが・・・
「ジェナスく〜ん。打ち上げをさぼって、何をいちゃついているのかね？」
いきなり紫色の大馬鹿者・・・もとい、魔導探求会会長ミック・スチュワー
ドが現われ、背後からジェナスの首を締め上げたせいで果たせなかった。
「なっ、ミ、ミック先輩！？なんでここにいるんですか！？打ち上げのはずで
しょう！？」
「だっはっはっはっは。あんまりお前が遅いから、探しに来たのさ。おお、テ
ィカ。久しぶりだなぁ」
一国の王女であるはずのティカの姿を見ても、平然とあいさつしてのけるミ
ック。この辺の神経の太さはさすがと言えよう。が、この程度の事でいちいち
呆れたりするような可愛気とは、基本的にジェナスは無縁である。ミックの腕
を振りほどいてぼやいてみせる。
「どうしてここって分かるんだか・・・」
「お前の行動など、半年先までお見通しだ」
ニヤリと笑って言ってのけると、とどめとばかりに宣告した。
「とにかく早く来いよー。つもる話もあるんだからな。来なかったら、新呪文
『松』『梅』『竹』のフルコースを味あわせてやるから、そのつもりでいる
よ〜に。では、さらばだっ！」
そう言って丘から姿を消すミック。毎度の事ながら、見事な神出鬼没ぶりで
ある。
「まったく、あの人は・・・」
ため息をつくジェナス。ティカも呆れ顔で苦笑していた。
「全然変わっていないね」
「ああ・・・行こうか、ティカ」
ジェナスが差し出した手を、ティカはしっかりと握りしめた。二度と離さな
い、そう宣言するかのように・・・。
（言い損ねたな・・・）
それから一ヶ月・・・。２人は魔物ハンターとしての資格を取り、旅に出た。
見送りのマーシャ達が見えなくなり、人もまばら・・・というよりいなくなっ
た頃合いを見計らって、腰に剣を下げたティカは立ち止まって話しかけた。
「な、なぁ、ジェナス」
「ん、何？」
「あのさ、１つ言い忘れてた事があって・・・」
照れくさそうにしながらも、ティカは強い決意をもって言葉を継いだ。
「その・・・好きだからな、ジェナスの事、私も・・・」
それでも消え入りそうな彼女の声に、彼は悠然と応じてみせた。
「知ってるよ」
意外なジェナスの返答に、ティカは驚いて彼の顔を見つめた。
「だから、こうして一緒にいるんだろ？」
そう言って彼は、かつて「どんな女の子でもついていこうって気になる」と
評された笑顔を見せた。それにつられて、ティカも笑顔を見せた。
「ああ・・・そうだね。だから、か・・・」
「そうとも」
ジェナスは大きく頷いた。
そして、２人の物語は新しいページを開く・・・
ＥＮＤ
後書き
終わったぁ、と言うわけで（どーゆー訳だ？）松です。「旅立ちの朝」をお
届けします。
中身は読んだ通りのティカＥＤＳＳ。ただ、ジェナスに告白させてみたとい
うものです。（他にもまぁ、王位の件を片づけたりしてますが）
ＥＤでいきなりティカだけが告白しているのがちょっと引っかかったもので
・・・（「知っている」とか言うならジェナスも告白しているよなぁ、と）
それにしても・・・台詞がしんどかった（笑）。何回、本編を見たことか。
言葉使いが変だったら、笑って見逃して下さい（苦笑）。
タイトルは「ファルコムボーカルコレクション２」から。とは言え、同名の
歌とは全く無関係な中身になっちゃったけど（苦笑）。最後の一文を歌詞から
借りて、手を加えただけ、の世界・・・困ったものです；
さて、それではこんな所で。次はシャーロット＆シャーリーＳＳだな。
松