１．Ｘｄａｙ−２ 陽のあたる丘公園
「・・・でいいかな？」
たまたまそこを通りかかったエルは、グローウォームの声を耳にした。何の
気なしに声のした方へ視線を走らせると、そこには珍しい面々がそろっていた。
グローウォームの他に、シェリル、トリーシャ、パティがそろっている。おそ
らくはパティの手製であろうクッキーの入ったバスケットを中心に、輪になっ
て座っている。
グローウォームの声を受けて、トリーシャがクッキーをつまみながら頷く。
「ボクはそれでいいと思うよ」
「それでいいんじゃない。あんたにしちゃ、いいアイディアだし」
パティも憎まれ口混じりに頷く。ただ一人、シェリルだけが不安げに、そし
て控えめに異議を出した。
「でも、いいんですか？本人に隠しておいて・・・」
「かまわないさ。年に一度の事なんだ。この程度の引っかけは許してもらうさ」
「一体、何をやるんだ？」
興味をそそられたエルが、パティの後ろから尋ねかけると、シェリル、トリ
ーシャ、パティの三人はギョッとなった。
「エ、エル！」
「な、なんだよ、そんなお化けでも出たような顔して・・・」
「やあ、エル。いつからそこにいたんだ」
「たまたま通りかかっただけだぞ。なあ、それより、何の話をしていたんだ？」
「何、ちょっと内緒で誕生日パーティを準備して驚かしてやりたい相手がいてね」
グローウォームは人の悪い笑みをたたえつつ、そう答えた。エルの後ろでは、
パティとトリーシャがあわてふためいていたが、当然エルは気付かない。
「そのパーティの打ち合わせをしていたんだ」
グローウォームは慌てる二人をさりげなく無視して話題を変えた。
「それよりエル、今日は休みなのか？」
「まあね、だから、この間お前が言ったようにブラブラ散歩でもしてみようと
思ったんだけど、何か、落ち着かなくてね」
「エル、お前、とことん肩の力を抜くってことが出来ないのな」
「余計なお世話だ、と言いたいところだけど、実際困っててね。グロウ、暇な
らちょっとアタシの暇つぶしに付き合ってくれないか？」
「なぜ、俺に？」
「得意だろう、暇つぶしは」
エルが人の悪い笑みと共に、グローウォームの体をひとさし指で軽く突いた。
「否定出来ないのがしゃくだなぁ」
グローウォームは軽く苦笑して立ち上がった。
「ま、いいだろ。付き合うよ」
「それじゃ、行こう」
「ま、そう言うわけで。後はよろしく」
グローウォームは、焦りの色を隠せない３人に笑いかけて見せた。
「あいつ・・・実はすっごく神経太いんじゃない？」
去っていく二人の背中を見送りつつ、パティは呆れたように言った。となり
でトリーシャも呆れ返っていた。
「うん・・・ボクもそう思う・・・」
「でも・・・エル、本当に気付いていないと思う？」
「私もそれが心配です。あんなにしゃべってしまっては・・・」
シェリルもパティ同様、不安げに頷く。パティがいまいましげに文句をぶち
まける。
「あんのバカ！当の本人に、誕生日パーティの計画、あんなペラペラしゃべっ
てどうするのよ！」
「でも・・・グロウさん、なんだか自信ありげにしていたよ」
「あいつの自信なんて、アテに出来るもんですか！エルにばれたらあいつのせ
いだからね！」
２．Ｘｄａｙ−１ 夜鳴鳥雑貨店
「あ、グロウさん」
「やあ、トリーシャ。買い物かい？」
「うん、エルの誕生日プレゼント買いに来たんだ」
「あ、そうか、プレゼントか。そいつは気付かなかったな」
真面目に手の平を拳で打つグローウォームに、トリーシャは慎重に問いただ
した。
「もしかして・・・グロウさん、全然考えてなかったの？プレゼント・・・」
「全く」
これまた大真面目に答えるグローウォームに、トリーシャは疲れ切った口調
で言った。
「グロウさん、すっごく間抜け」
「否定はしないよ。しかし、困ったな。エルが喜びそうなものか・・・トリー
シャ、何がいいと思う？」
「ダメだよ、グロウさん。プレゼントは、相手のことを考えて、自分で選んだ
物を送るから喜ばれるんだよ」
「そうそうもんかね・・・さーて、それじゃ何にしたもんだろうな・・・」
グローウォームが、カウンターをのぞき込みながら品物を吟味していると、
不意にドアに付けられた鐘が軽やかな音を立てた。
「エ、エル！？」
トリーシャが慌てて手にしたプレゼントの入った包みを後ろに隠した。
「やあ、トリーシャにグロウじゃないか。二人とも何しているんだ？」
「うん、ちょっと買い物。エル、お前は？」
「あ、うん・・・アタシもちょっとイヤリングをね・・・」
「あー、そう・・・ははは・・・」
「トリーシャ、昨日から何か変だぞ。何かあったのか？」
「えっ、ううん、何でもないよ！あ、そうだ、ボク用事があったんだ。それじゃ！」
言うが早いか、トリーシャは逃げるように（いや、実際逃げているんだが）
飛び出した。
「変な奴だなぁ。なあ、グロウ、どう思う？」
「隠しておきたいことでもあるんだろ」
「アタシにか、何をだよ？」
思わず声を高めるエル。が、グロウは軽く肩をすくめてみせただけであった。
「さあ？」
計画の首謀者でありながら、ここまでとぼけるのだからいい度胸である。そ
んなグローウォームをエルはうさんくさげににらみ付けた。
「そういえば、昨日、お前も一緒にいたな。一体何を企んだ？」
「いきなり俺に来るなよ。それに、そのことなら、明日になれば分かるさ」
「何だよ、明日って」
グローウォームは、真剣に疑わしげに問い返した。
「エル、お前、本当に気付いていないのか？」
「だから、何なんだ？」
二人の問答はこれから１０分ほど続けられたのであった・・・
３．Ｘｄａｙ ジョート・ショップ
夜、マーシャル武器店で在庫整理をしていたエルは、誰かがドアをノックし
ているのに気付いた。
「開いているから、入ってきな」
大声で答えると、グローウォームが姿を見せた。
「邪魔するよ」
「何だ、グロウか。何の用だ？」
「いや、今からジョート・ショップでパーティを開くんだけど、良かったら来
ないか？」
「今からか？うーん、マーシャルいいか？」
「いいアルよ、楽しんでくるヨロシ」
年中上半身裸のマーシャルが、ニコニコしながら許可を出した。エルは軽く
頷くと、身をひるがえして自分の部屋へ向かった。
「ちょっと着替えてくるから、待ってろ」
「ああ」
答えるグローウォームとマーシャルが共犯者の笑みを交わし合ったことに、
エルは全く気付いてなかった。
ジョート・ショップへの道中、エルは不意に口を開いた。
「なあ、グロウ」
「何？」
「昨日、おとといと、アタシに何か隠していないか？」
「エル、俺も聞きたいことがあるんだ。本当に、今日が何の日か心当たりはな
いのか？」
「あのなあ、昨日からそれを聞いているが、今日って日に何か意味があるのかよ？」
「その「意味」については、ジョート・ショップに着いてから話すよ」
「いい加減にしろ！昨日からずっと、皆そろってアタシを避けるようにしてい
るんだぞ。顔を合わせれば確実にケンカになるあのマリアですらだ！お前ら、
何を考えている！？」
「怒るなよ。お前をちょっと驚かせようと思っただけなんだから・・・」
「何だよ、それ？」
グローウォームはそれには答えなかった。代わりに別の事を口にした。
「着いたよ」
グローウォームの言葉につられてジョート・ショップを見てみると、明かり
がともっていなかった。
「おい、グロウ。これもアタシを驚かすため、か？」
「ま、そんなところだ。さ、どうぞ中へ」
グローウォームは丁重に一礼してドアを開けた。エルはため息を一つつくと、
意地でも驚くものかと思いつつ中に入った。すると・・・
スパパパパーン
「な！」
だしぬけに、鳴り響いたクラッカーの炸裂音に、エルはギョッとなった。続
けて明かりが付けられる。
「エル、誕生日、おめでとー」
トリーシャの声を皮切りに、一斉に祝いの声が上がる。
「え・・・誕生日って・・・アタシの？」
戸惑いの声を上げるエルに、グローウォームが本気で呆れたように尋ねた。
「エル・・お前、本っ当に気付いてなかったのか・・・？」
「ああ・・・今の今まで、すっかり忘れていた」
「エル、お前、案外、間抜けだぞ」
「ーーーーっ、他の誰に言われようと、お前にだけは言われたくなかった・・・」
心底、悔しそうにエルは呟いた。そんなエルに、グローウォームはクスクス
笑いながら話しかけた。
「日頃のお返しだ。さ、パーティを始めようぜ」
「ああ！」
「さっ、エル、こっちこっち。グロウさんも」
明るいトリーシャの声に誘われて、あいている所にエルとグローウォームが
入る。
カウントダウンが終わって、楽しいパーティが始まる。
ＥＮＤ
後書き
エル、誕生日おめでとう、ということでこのＳＳを書きました。初出はＩＮ
ＥＴのエルＦＣの誕生日企画です。
さて、お約束と言えばお約束の「本人に内緒でパーティの準備」パターンで
すが・・・何となく、エルだと、自分の誕生日のこと忘れていそうな気がした
もので・・・。
そして、主人公、グローウォームは実はこんな人をくった奴なんです。なに
せ、一部に「デルフィニア戦記」のウォル・グリークが入っていますから・・・。
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松