へ？来たばかりの頃のグロウさんのことっスか？う〜ん、そうっスねぇ・・・
そう言えば、よくうなされてたっス。だから、しばらくの間、ご主人様がグロウ
さんの部屋で様子を見てたっス。あとは・・・あっ、そう言えばボクを仲間外れ
にしたことがあるっス。グロウさんが来てから１ヶ月くらいしてから、山賊がエ
ンフィールドを襲ったっス。で、その時にグロウさん、何かあったらしいんっス。
・・・けど・・・グロウさんも、何があったか知っているご主人様も、何もボク
に教えてくれないっス・・・
テディの証言
ふと気付くと、グローウォームは完全武装の状態で歩いていた。妙な話である。
まだ傷が癒えていないのに、肩当てを含めた防具を装備出来るわけがない。
（そうか・・・これは夢か・・・）
ありえない事が起きている理由を、彼はそう結論づけた。そうすると、次に何
が起こるか、容易に予想できた。
（そろそろ、か・・・）
そう思うと同時に、何度も嗅いできた血の匂いが漂ってきた。そして目の前に
建物が姿を現わす。
グローウォームはため息をついた。いくら何度も見た夢とはいえ、自分の故郷
の村が滅ぼされる夢というものは気分が重くなる。あらためて顔を上げ、目の前
の建物に視線を走らせる。
「これは・・・？」
彼は思わず不審の声を上げていた。目の前にあるのは、幾度も夢に出てきた故
郷の誰かの家ではなかった。エンフィールドの名物食堂、さくら亭であった。
（何故、さくら亭が？）
不審には思ったものの、この夢の中ではこのまま中に入るしかないことを、グ
ローウォームはよく知っている。もう１度、あきらめのため息をつくと、彼はド
アを開けた。
そこには、彼が予想した通りの惨状が展開されていた。むせかえるほど強い血
の匂いの中に、血まみれの死体が転がっている。その中には、パティ、トリーシ
ャ、シェリルといった見知った顔もあった。
侵入者達に対し、真っ先に立ちはだかったであろうパティは喉笛をかき切られ
ていた。シェリルをかばおうとしたらしいトリーシャはナイフを胸に突き立てら
れていた。シェリルは特に外傷らしいものはなく、ただテーブルに突っ伏してい
た。おそらく首の骨を折られたのだろう。
その惨状を確認して、グローウォームは髪をかき回しつつ肩をすくめた。夢で
あると承知していても、この光景に気分が良くなることはない。いや、むしろ苛
立たしくなってくる。グローウォームは、このままこの街に居続ければ、本当に
この事態を招き寄せかねない事を承知している。そんな承知していることをあら
ためて夢で見せられても、というわけだ。
そんな思いに捕われていると、不意に後ろから肩を叩かれた。驚きながら振り
返ると、そこにリサがいた。彼女は侵入者達と激しく戦ったのであろう。あちこ
ちに返り血を浴びていた。だが、そんな返り血よりも、致命傷と思われる肩の傷
から吹き出た彼女自身の血の方が、鮮やかと言っていいほど彼女の半身を染め上
げていた。
「案外、動じてないね」
「夢、だからな」
グローウォームは素っ気ないほどの態度で応じた。
そう、夢と分かっているから、現実ではないと分かっているから、彼はこうし
て落ち着いていられるのだ。
いつからかは忘れたが、彼は夢を見ている最中にそれを夢と認識するようにな
っていた。故郷を失って以来この種の夢ばかり見るようになった、という現実に
対する精神的な防御措置なのかもしれない。
「ふーん・・・」
そんな彼を、リサは興味深そうに見つめ、そして苦笑した。
「まったく、可愛気がないねぇ。ま、あれを見れば、少しは動揺するだろうけど
さ」
「あれ？」
グローウォームがリサの指し示した方を見る。と、同時にリサが姿を消し、そ
してさくら亭そのものが消えた。彼はまた１人で、無意味にだだっ広い場所にと
り残される。
（何だ、今度は・・・？）
グローウォームが眉をひそめると、視線の先にシーラが現れた。必死に逃げて
きたためか息が荒い。グローウォームの姿を認めると、安堵の表情を見せて駆け
よって来た。
「グロウ君！」
笑顔すら見せるシーラの背後に、小柄な人影が現れる。その人影は、グローウ
ォームが警告を発する間も与えずシーラの背中を切り裂いた。
「！！」
最初に、愛用のストールが２つに切れて宙に舞った。続いて、シーラ自身が糸
の切れたマリオネットのように倒れ伏した。
「そ・・・んな・・・」
グローウォームは驚愕のうめきを漏らした。ただし、驚愕したのはシーラが切
られた事に対してではない。切った人物の正体を知って驚愕したのだ。
「アリサ、さん・・・」
「可哀想に・・・」
「え？」
「あなたと知り合ったばかりに、死ななくてはならなくなってしまうなんて・・
・」
本当に悲しげに、アリサはつぶやいた。そして、悲しげな表情で剣をグローウ
ォームに向けた。
「そして・・・私はあなたも殺さなくてはいけないの」
「・・・・・・」
グローウォームは何も言わなかった。ただ、アリサから吹きつけてくる殺気を
受けて、今までの放浪生活で体に叩き込まれた条件反射で身構えた。が、彼の顔
には深い苦悩が浮かんでいた。
（イヤダ・・・）
彼の頭脳の中で、理性とは異なるもので制御される部分が悲鳴を上げていた。
（イヤダ、タタカイタクナイ！）
（何を言っている？）
相手は剣を向けている。戦う理由はそれだけで十分である。たとえ相手が恩人
であろうとも、だ。なのに、
（何故だ！？死にたいのか！？）
アリサの一撃を矛の柄で反射的に防ぐと、理性が再び叫んだ。それに対する他
方の声は、だだをこねる子供のような調子で応じた。
（イヤダ！コノヒトトハ、タタカイタクナイ！！）
続いて襲いかかってきた突きを、小剣の刀身をそのまま取り付けたような矛先
で受け流す。今度は彼の頭脳が何か声を上げるよりも早く、アリサの３撃目が襲
いかかってきた。理性が何か決断するよりも、理性以外の部分が叫ぶよりも早く、
故郷を失って以来の６年で身にしみついた戦士としての本能が反応していた。
振り降ろされた剣を矛で受けとめる。そのままその矛の向きを変え、剣の上を
滑らせるように突き込んだ。その切っ先は、正確にアリサの心臓を捉えた。
「！！」
殺した者と殺された者、どちらがより驚いたかは分からない。ただ、はっきり
と言える事は、その直後グローウォームが呆然となったということである。
（あ・・・）
グローウォームは、呆然となった事実に戸惑いを覚えた。いつもなら、こんな
感情を覚えたりはしない。ただ、殺そうとしたものを返り討ちにしただけなのだ
から。
（ただ、それだけなのに・・・）
そう思っていると、倒れたアリサがうっすらと微笑みさえ浮かべながら話し始
めた。
「ふふっ、戸惑っているわね」
無言でアリサを見つめる事で応じるグローウォーム。そんな彼に、アリサは話
を続けた。
「何を戸惑っているの？あなたが私を殺したのよ・・・恩人としてあなたが守り
たがっていた私を・・・」
「言う、な・・・」
グローウォームはかろうじてそれだけを口にした。それだけですら、喉の奥に
張り付いたものを引き剥がすような努力が必要であった。だが、アリサは冷酷さ
すら感じる落ち着いた声で話し続けた。
「あなたが殺したのよ。私が死ぬのはあなたのせい。そしてあの娘達が殺される
のも・・・」
「言うな！」
グローウォームは叫んだ。認めたくない、だが否定しがたい事実の一面を指摘
されて上げたその叫びは、ほとんど悲鳴じみていた。
（今さら言われなくても・・・！）
そう、今さら言われなくとも分かっている。もし、このような事態が発生する
とすれば、それは彼と、彼をよく知る者を付け狙っての事、それ以外にない。グ
ローウォームはその事を嫌と言うほど知っていた。そして、彼と関わり合いにさ
えならなければ、彼女たちが殺されることもないということも・・・。
（だから・・・だからここから出ていこうとしたんじゃないか！）
悲鳴のような叫び。どこにも留まらず、誰かと深く関わり合いにならなければ、
誰かを失って傷付くということもなくなる。
６年前に故郷を失い、その後、わずかに居着いた村も焼き払われたグローウォ
ームは、その時に受けた心の傷を、そう思いこむことで、いくつかの欲求もろと
もに凍り付かせることで、悪化させる事を防いでいた。だがそれは、その傷が癒
えないことも、同時に意味しているのだが・・・。
だが、今、彼に話しかけているアリサは、その傷をえぐるかのように責めたて
て来た。心に耐えがたい痛みが走る。それを振り払うかのようにグローウォーム
は絶叫した。
「言うな！！」
（何故だ？何故こんなに痛みを覚える？今までも同じ事を経験したはずなのに・
・・）
グローウォームは、そんな痛みと戸惑いを振り払うかのように、激しく頭を振
る。それでも痛みは消えない。それどころか、痛みの原因となったアリサの声さ
え、グローウォームの脳裏で消えることなく繰り返されていた。
（ヤバイ・・・）
心の傷が広がっていく。今は凍りつかせた部分でおさまっているが、このまま
広がれば確実に壊れる。
（いっそ、このまま壊れた方が楽かもな・・・）
そんなグローウォームの思いは、ある面においては正しい。何かを感じる心が
壊れてしまえば、何かに苦痛を覚えるという事もなくなる。そんな状態がまとも
かどうかは、また別次元の問題だが・・・。
そう思っていると、不意に誰かの腕が背後から伸び、包み込むように彼を抱き
しめた。
「アリサさん・・・」
グローウォームは、自分を抱きしめてきた人の名を呟いた。呼ばれたアリサは、
彼を安心させるかのように暖かい微笑みを見せた。
「大丈夫、こんな事にはさせないから」
「なるわ、彼といれば・・・」
倒れ伏したアリサが悪意を込めて否定する。その一言に、抱きしめたアリサは
もう一人の自分をひたと見つめた。
「やめなさい。私の顔で、私の声で、彼を惑わせないで」
声はいたって柔らかい。なのに、どこか抗い難いものを感じさせる声。そんな
声で、アリサは宣告した。
「お消えなさい。跡形も残さずに」
彼女が手を振ると、倒れ伏したアリサの姿が幻影のようにかき消えた。アリサ
の宣告通り、跡形も残さずに・・・。
「アリサさん・・・」
「約束したでしょ。あなたを１人にはしない、と・・・」
（あ・・・ヤバイ）
アリサの一言に、彼は今までとは異なる危機感を抱いた。
（暖かすぎる・・・）
優しくて暖かい。アリサの腕の中は、そんな居心地の良さを持っていた。だが、
その中にいると、心の崩壊を避けるために凍り付かせた部分すら溶けてしまいそ
うで、グローウォームは怖かった。正確には溶けた後、自分の心が耐えきれず壊
れるのではないかと、そしてこの夢が現実のものとなった時、その衝撃に耐えき
れないのではないかと恐れていた。
「怯えないで・・・」
そんな彼の危機感を見透かしたかのように言うアリサ。彼は、そんな彼女にど
こか絶対的な信頼感を覚え始めていた。
（ほんと、ヤバイなぁ・・・）
抱きしめられているのに、まるで警戒心がわかない。それどころか、安心した
せいか眠くなってきた。いや、正確には夢から覚める、と言うべきだろう。
（手遅れかな、これは・・・）
そんなこと考える内に、意識が途切れた。
「ん・・・」
意識の戻ったグローウォームが最初に知覚したのは、自分の右手が握っている
誰かの手のぬくもりであった。
（手？・・・誰の・・・？）
素朴な疑問と共に頭を動かし、すぐ側にいた手の持ち主を見つけ出した。
「アリサさん・・・」
「おはよう、グロウクン」
いたって穏やかな笑顔。その笑顔に、どう応じるべきか迷ったグローウォーム
はゆっくりと問いかけた。
「あの・・・アリサさん、ずっとここに？」
「ごめんなさい、なんだか悪い夢を見ているみたいだったから・・・少しでも落
ち着けばって・・・」
「そう、ですか・・・」
何とも言い難い表情で、彼は自分の右手を見つめた。握っているアリサの手か
ら単なる体温にとどまらない、暖かい何かが流れ込んでいるような気がしたのだ。
そんな彼の視線に気が付いたのか、アリサは小さく頷くと口を開いた。
「こうやって手を握っていると、不思議と安心出来るのよ、どんな人でも・・・」
「そんなに・・・うなされていましたか？」
「目が不自由なせいかしら・・・音とか匂いとかには敏感に反応するの」
そう言うと、グローウォームの手を離して立ち上がった。
「あ・・・」
離れた手に名残惜しさを覚えて、彼は思わず声を出していた。
アリサの暖かさを、ずっと感じていたいと思っている自分を認識して、グロー
ウォームはため息をついた。
（やばいなぁ・・・本当に、なんとかしないと・・・）
そして、ある決意を固めたのだった・・・
え？グロウの奴の事？それも来たばかりの頃の？う〜ん、別に何かあったわけ
じゃないから覚えてないんだよな。・・・ああ、そうだよ、ここに武器やら防具
やらを買い込みに来たよ。そん時の事？確か・・・ああ、そうそう、いつものよ
うにマリアの奴が邪魔しに来たんだっけ。それをあいつが上手くいなしたんだ。
そういえばあいつ、その時変な事を言ってたな。２０人くらいと戦うような事を
・・・
エル・ルイスの証言
マーシャル武器店で、グローウォームはいくつかの手裏剣を吟味していた。重
さ、バランスといったものを、実際に投げてみて慎重に確認していた。
「こいつがいいな」
そう言って、彼はいたってシンプルな作りの手裏剣をとり上げた。エルはそれ
を確認すると、在庫の有無を調べ始める。
「それにしても・・・」
リストを繰りながら、彼女は呆れたように言った。
「治った途端に旅の準備か？目的がないなら、そんなに急がなくてもいいんじゃ
ないか？リハビリもしてないんだろ？」
エルの言う通りで、今のグローウォームの右腕の状態は怪我が治っただけにす
ぎない。治す間ずっと動かせなかった（はずの）筋肉は、多少なりともなえてい
るはずであり、そのまま旅に出るのは危険なのだが・・・。
だが、彼は微かに笑ってあっさりと答えた。
「一つ所に落ち着けないたちでね」
「ふーん」
「ま、６年も旅をしていればね・・・それが自然にもなるさ。それより・・・」
グローウォームは笑みを消して言葉を継いだ。
「肩あてと手甲、硬革（ハードレザー）のを頼む」
「硬革？鉄製のや鉄板挟んだやつもあるけど？」
硬革とは、油で煮込んで硬くした革のことである。強度がある割には素材が手
に入りやすく、その上加工が容易、軽量、とあって、鉄製の鎧が珍しくもない現
在でも愛用する者は少なくない。もっとも、最近では強度を増すために薄い鉄板
に硬革を貼り付けたものの方が使われているが。
「鉄は魔法を使う時、邪魔になるからいらない」
「魔法？お前、そんなの使ってんのか？」
「魔法」と聞いた途端に、エルの表情は「不機嫌」そのものになっていた。
この時点では、グローウォームは知らなかった。このぶっきらぼうなエルフの
前で魔法の事を口にするのは禁忌である事、そして口にして彼女の怒りを買うと、
ある乱入者が事態をややこしくしてしまうという事を・・・。
そして彼は、それらの事を徹底的に思い知らされる事になる。
「魔法を『そんなの』扱いするなんていい度胸ね、エル！！」
「きやがったな、爆裂魔法お嬢が・・・」
自称「美少女天才魔術師」、エルいわく「爆裂魔法お嬢」（エンフィールド内
でどちらが通りが良いかについてはあえて伏せる）ことマリア・ショートが勢い
良く飛び込んできた。そんな彼女を見た途端、エルはこめかみを押さえつつ低く
うなる。この後の店の被害額に思いをいたしたのかもしれない。
もちろん、マリアはそんなエルの反応を気にもとめずにグローウォームに話し
かけた。
「ねぇねぇ、やっぱり旅の途中でも魔法とか使うんでしょ？瞬間転移とか・・・」
「使わないけど」
「へ？」
「瞬間転移魔法なんて迂闊に使ったら、壁の中に突っ込むんだが・・・」
「じゃ、じゃあ、敵を一気になぎ払う必殺魔法とか・・・」
いきなり否定され、やや引きつりながらも質問を変えるマリア。
「どれだけ出てくるか分からない連中のために、限りある魔力を使うのは危険だ
ぞ。大体、詠唱中に一撃喰らいかねないし・・・」
「夜のための、〈明かり〉とか、火を付けるための〈着火〉とかは・・・」
またまた否定され、頬のあたりに汗が一筋流れる。
「明かりはランタンがあれば事足りるし・・・火を付けるなら火打ち石があれば
十分なんだが・・・まぁ雨が降っている時とかは〈着火〉を使うけど」
立て続けに否定され、マリアがついに噴火した。
「じゃ、じゃあ、どこで魔法を使うのよ！！」
「戦闘中。敵じゃなくて、自分にかけるの」
「なるほど、精霊魔法か」
グローウォームの一言に納得の声をもらすエル。
「効果が持続するし、その間に攻撃魔法を使った時以上に敵を倒せるしな」
頷いて説明する。それに納得出来ずに、マリアは思いっきりかみついた。
「倒すんだったら、物理魔法の方が早いのに〜」
「２、３０人を相手にする時は、魔力が持たないぞ」
「だから、アタシがいつも言っているだろ。魔法なんてそんなに役に立つわけで
もないって」
「ぶ〜☆ そんなに使えないか、試してみようじゃないの！『凍てつく刃よ・・
・』」
いきなり、呪文の詠唱を始めるマリア。エルが慌ててカウンターを飛び出した。
「こら！アタシの店を壊すんじゃない！！」
が、呪文完成の方が早かった。
「〈アイシクル・スピア〉！」
「〈ルーン・バレット〉」
マリアの声に、グローウォームの声が重なった。
「あっ！！」
エルとマリア、２人の驚きの声が重なる。
この時のマリアの〈アイシクル・スピア〉とグローウォームの〈ルーン・バレ
ット〉の動きを描写すると以下のようになる。
まず、マリアの〈アイシクル・スピア〉が発動、鋭く尖った氷のかたまりが出
現し、グローウォームへ向かって飛び出した。直後、〈ルーン・バレット〉も発
動、３つの火の玉が出現する。通常なら、ここで火の玉が互いに絡み合うような
軌跡を描きつつ目標に向かうのだが、この時は違った。３つの火の玉のうち１つ
だけが直進、氷のかたまりと正面からぶつかり合った。火の玉がその熱で氷の先
端を丸めていると、残りの２つは弧を描きつつかたまりの真上から、氷のかたま
りを襲った。〈アイシクル・スピア〉の名の通り、槍のように細長いかたまりは、
この一撃であっけなくへし折られ、地面に落ちる。
全ては１秒にも満たない短い時間の出来事だが、エルとマリアを驚かせるには
十分な出来事だった。〈ルーン・バレット〉を〈アイシクル・スピア〉にぶつけ
ても投入される魔力の差から一方的に打ち消される、それがごく一般的な常識で
あった。なのにこの男は、それをあっさりと打ち破って見せたのだ。
「ど、どうやって、打ち消したの！？」
マリアが聞くのも無理はない。それに対し、グローウォームは長い髪をかき回
しつつ、困ったように言った。
「どうやってって言われてもなぁ・・・見ての通りとしか言いようがないんだが」
「〈ルーン・バレット〉をあんな風に飛ばせるなんて、初めて聞いたぞ」
「あれ？おかしいな・・・これはエルフの魔法使いから聞いた方法なんだが・・
・」
エルの疑問に、グローウォームは小首をかしげる。彼の疑問に答えたのは、意
地の悪い笑顔を浮かべたマリアだ。
「だって、エルってば魔法、使えないもんね☆」
「え？」
「うるさい！」
グローウォームは唖然となり、エルはマリアを怒鳴りつけた。２人を等分に見
つつ、グローウォームは問い返した。
「使えないって・・・封印でもされたのか？」
いたって穏当な推測。制御が困難なほど大きな魔力を持つ者は、自身の安全の
ためにその力を封じられる事がある。てっきり、そんな事だろうと思ったら、
「ううん、生まれつきみたい。だから、里も追い出されたんでしょ、エルは」
「うるさい！！いい加減にしろ！！」
「あんまり、そういう事を言いふらすものじゃないな・・・」
エルの怒声には平気だったマリアだが、グローウォームの静かな一言にはピク
ンと反応した。
「な、何・・・？」
「自分の意志でどうか出来ない事で、あれこれ言われるのは嫌なものでね」
グローウォームは意外なほどの重みを感じさせる口調で続けた。
「そういう事で故郷を追い出されたとなれば、なおのことだ」
「う・・・」
マリアは何も言えなくなってしまった。とにかく一言一言の重みがすごいのだ。
まるで自身の経験を語るかのような重さがある。
「お前・・・分かるのか？」
「俺は、望んでもいない力を持たされて、だがね。だが、故郷に帰れない、とい
う痛みは理解できる、と思う・・・」
「ふ〜ん・・・」
エルは何となく反応に困り、小さく頬をかく。そんな彼女に、グローウォーム
は重さを消した声をかけた。
「ところで、俺の頼んだ手裏剣と肩当てと手甲は、いつ持ってきてくれるのかな
？」
「あっ、すまない。すぐに持ってくる」
身をひるがえして倉庫に向かうエル。そんな彼女を見送ると、グローウォーム
は苦笑混じりに呟いた。
「やれやれ、えらく手間がかかったな・・・」
そんなトラブルの末、一通りの武器と防具、それに食料など、旅に必要な道具
を買い込んだグローウォームは、ジョートショップに戻った。
「おかえりなさい、グロウクン」
「ああ、アリサさん」
アリサの出迎えに、彼はそんな曖昧な返事を返した。
「ずいぶん色んな物を買い込んだっスね」
事務机の上のテディが、感心したように言う。その言葉に、アリサの表情がわ
ずかに曇った。
「やっぱり・・・行ってしまうの？」
「ええ、最初からそのつもりでいましたから・・・」
「ねぇ、グロウクン、考え直してくれないかしら」
すがるような気配さえ感じるその声に、今度は彼の表情が曇った。
「すいません、アリサさん。それだけは・・・」
「そう・・・」
アリサが「考え直して」と言ったのは２日前、彼女がグローウォームに持ち掛
けた提案に対する返答である。彼女はこう提案したのだ。
『住み込みでこのお店を手伝ってくれないかしら？』
この提案に対する、彼の最初の反応は「絶句」だった。当然だろう。今の彼は
せいぜい「素性の知れない行き倒れ」であるにすぎない。そんな相手に、いきな
り職の提供同然の「住み込み」を提案するのは、よほどの度量の持ち主か、単な
るお人好しかのどちらかであろう。
まぁ、アリサがどちらであるにせよ、彼の返事は決っていた。否、である。街
１つ潰す事をためらわないような連中に狙われる身にとって、一つ所にとどまる
のは自殺行為に等しい。だが、そういった事情の全てを語るわけにはいかない。
代わりに彼が口にしたのは、買い出しの時にエルに言ったのと同じ事、「一つ所
の落ち着けない性分だから」だけ。
別に嘘はついていない。原因をはしょっているだけ。だが、そう言って断った
時に、アリサが悲しげな表情になった時、胸が痛んだのは事実だ。そして今も、
とげが刺さったかのような痛みが走る。
（俺は・・・この人の事を裏切っているのかも・・・）
が、一瞬後に、強く否定する。
（馬鹿な事を・・・この人を危険にさらすことの方が、よほどひどい裏切りじゃ
ないか）
そして、出来るだけ彼女と目を合わさないようにして、部屋に戻った。
「ご主人様、どうしてグロウさんに住み込みを薦めるんスか？」
本人は嫌がっているようなのに。そう言いたげなテディの問いを受け、アリサ
は小さなため息混じりに答えた。
「そうね・・・嫌がっている人に、どんなに言っても無理とは思うけど・・・」
「けど・・・なんスか？」
「何でもないわ。テディ、夕ごはんを作るから手伝ってくれないかしら？」
「ウイッス」
命令最優先の魔法生物は、アリサの指示を受けるとあっさりとさっきまでの疑
問を脳裏から追い払って台所に向かうのだった・・・。
何で夜盗の襲撃に気づいたかって言われてもなぁ・・・。まぁ、勘・・・みた
いなものとしか言いようがないんだ。その時は、アリサさんに気づかれない内に
街を出ようと荷物をまとめていたしな、ちょうど・・・
グローウォーム・グレイフォードの証言
「満月、か・・・」
グローウォームは、わずかに雲で隠れている月を見上げて呟いた。すでに準備
は出来ていた。荷物は背嚢の中に詰め込んだ。手裏剣は全てベルトに挟んである。
剣は下げたし、矛も手にしている。そして、アリサに伝えておくべき感謝と謝罪
の言葉は書き置きにして、代金代わりの宝石を入れた小袋と一緒に残した。
やるべきことは全てやった。後は、血なまぐさい後始末だけだ。
（来たか・・・）
窓から見える木が微かに揺れた。それが風によるものではなく、人為によって
なされたものである事を彼は知っている。
一瞬だけ、彼は目を閉じ、心の中で恩人でもあるこの家の主人に対し感謝と別
離の思いを告げた。
次の瞬間、目を開けた彼は一切の感情を封印し、戦闘状態を整えていた。
「始めるか・・・」
言葉に続けて無造作に窓を開け放つ。続けて無造作に手裏剣を投げ放つ。
目の前の木に、それが吸い込まれる。空白の間。それは、一陣の風が流れるま
で続いた。直後・・・
ガササッ
枝葉を無造作にかき分ける音と共に、動きやすい、だが目立たない作業服を着
た男が１人落ちてきた。喉元に手裏剣が刺さっている。確認するまでもなく、死
んでいる。
死体が地面に叩きつけられるのと同時に、グローウォームは窓から飛び降りて
いた。彼の着地地点目掛けて、複数の手裏剣が別々の方向から投げつけられた。
おそらく投げつけた者達は、グローウォームを仕留めたものと思ったに違いない。
直後
ドスッ
鈍い音と共に刃が地面を噛む。
「！！」
家の陰、茂みの中、そういった所で動揺の気が発せられた。彼らの手裏剣がむ
なしく地面を噛むのを確認したからだ。そして、地面に突き刺さる手裏剣の輪の
中心には、グローウォームの矛が突き刺さっている。彼は、敵の攻撃を予測して、
矛を突き立て着地の時間をずらしたのだ。
「２人目・・・」
ポツリと呟き、グローウォームは茂みに向かって手裏剣を放つ。茂みの中から
先ほどと同様の格好の男が驚愕の表情を浮かべて現れ、そして倒れた。その胸に
は、やはり手裏剣が刺さっている。
グローウォームは、その男−刺客−が倒れるより早く、まだいる筈の刺客を倒
すべく、行動を起こした。彼は視界にはっきりと捉えた家の陰にいる刺客目掛け
て突進する。狙われた刺客は、自分が見つかった事が信じられなかったらしい。
焦りが見て取れるほどの慌てぶりで剣を引き抜く。同時に、グローウォームの背
後から刺客が２人飛び出し、彼目掛けて手裏剣を放った。
気配だけでそれを悟ったグローウォームは、まず振り向きざまに矛を大きく振
り回し放たれた手裏剣をたたき落とす。そして、振り向いたその勢いを利用し、
斬りかかってきた刺客と相対し、斬撃を矛の長い柄で防ぐ。金属同士がぶつかる
澄んだ音がおこる。刺客が剣を引き、続けざまに第二撃を加えるより早く、グロ
ーウォームの矛が刺客の胴をなぎ払った。
「３人目・・・」
彼の言葉通り３人目の刺客が崩れ落ちる。そして、背中を向ける彼に先ほど手
裏剣を投げつけた２人の刺客が、いつの間にか抜いた剣を手に襲いかかる。気合
いの声さえ漏らさず襲いかかる刺客達。振りかぶった剣がグローウォームの頭に
落ちかかる寸前、彼の身体は横に滑った。
「ぐっ・・・」
「４人目・・・」
グローウォームは言葉と共に、後背へと突き出した矛を引き抜く。一撃を加え
るその瞬間に、彼は脇の下から矛を突き出し、刺客の１人を貫いたのだ。このま
ま戦い続けられるのであれば、彼は過去、一度も経験したことのない完全勝利を
手にしたかもしれない。だが、現実は違っていた。
「どうかしたの・・・？」
その声を聞いた途端、グローウォームはその場で硬直した。刺客達も同様であ
った。そろって声のした方に視線を走らせる。そこには、寝間着に上にショール
を肩にかけたアリサがいたのだ。
先に解凍したのは刺客の方であった。
「その女を殺せ！」
「アリサさん、隠れて！！」
刺客の命令に、グローウォームも解凍し叫ぶ。既に血の匂いがたちこめるこの
状況でなら、目を患っているアリサでも危険は分かるはず。そう考えての叫びだ
が、これが裏目に出た。
「グロウクン・・・？」
アリサが彼の方を見る。２人の視線が重なった。その時、彼は心のどこかに激
しい痛みを覚え、その一方で安堵に近いものも覚えた。今の、殺戮者としての自
分を見て恐怖されるであろう事に対して痛みが走り、そして、その恐怖ゆえに、
もう引き止められることはないであろう事に対して安堵したのだ。
だが、その前に刺客達を全て排除せねばならない。グローウォームは、矛の動
きに任せて、斬りかかって来る刺客の剣をへし折る、というより粉砕し、その勢
いで刺客の首を貫き、地面に縫い付けた。
その直後、彼はその向こう側にさらに刺客が現れ、手裏剣を投げつけようとし
ているのを認識した。矛を引き抜く暇はない、そう判断したグローウォームは矛
をそのままにして刺客目掛けて突進する。しかし、腰に下げた剣の間合いに近づ
くより早く、刺客は手裏剣を放っていた。
「ちっ！！」
表面に出してのグローウォームの反応はそれだけだった。だが、彼の起こした
行動はそれとは比較にならないほど、苛烈だった。
「何！？」
刺客が驚きの声を上げた。グローウォームは己の左手を手裏剣の軌道上に差し
出たのだ。直後、手裏剣はその左手に突き刺さる。自分の体を傷つけてまでなさ
れた阻止行動に、棒立ちになる刺客。そんな自失は、ほんの一瞬の間の事であっ
た。だが、彼らのような人種にとり、その一瞬が命取りになる。この時も例外で
はなく、この刺客が気付いた時には、グローウォームが目の前に迫っていた。
「この・・・！！」
彼の口から小さい罵倒の言葉が漏れる。彼自身は全く自覚していなかったが、
それはこの戦闘が始まってから初めての事であった。そして、無自覚にそうする
ほどの感情を込めて、彼は腰に下げた小剣を抜き打った。
ザンッ
最初に右腕が、次いで頭が宙に舞った。首から上と右腕を失った死体は、グロ
ーウォームにはじき飛ばされたかのように後ろへ吹き飛んだ。無論、まだ終わっ
てはいない。彼の背後では、今まで待機していたのであろう刺客がアリサ目掛け
て突進していた。そして、正面からは彼の行動を押さえるために別の１人が突っ
かけてきた。
そんな状況下で、彼は瞬時に決断した。アリサを守ることが最優先。であるな
らば、アリサに襲いかかっている刺客を倒すべきである。その間に、自分が一撃
喰らう事になるであろうが、要はその一撃で戦闘能力を失わなければいい。少な
くとも、この場にいる刺客達を倒せる力さえ残っていれば、何とか出来る。その
後、彼自身が（その時の傷で）死ぬであろう事は、一切考慮に入ってなかった。
そう決断して振り返った時、グローウォームは未だ玄関先に立つアリサの姿を
見いだして、絶望的な思いに捕らわれた。
（間に合わない！？）
アリサがジョートショップの中に逃げ込んでくれれば、十分な時間を稼ぎ出せ
ると判断していた。だが、その前提条件が崩れれば話は変わる。今から刺客に向
かって突進したのでは絶対に間に合わない。手裏剣を投じようにも取り出すだけ
の時間がない。唯一の方策は、手にしている小剣を手裏剣代わりに投じる事だけ
である。そして、何のためらいも見せずに、その方策を実行に移そうとした時、
アリサの周囲で異変が起こった。
〈星の光よ、夜の風よ、我が周囲に集え・・・〉
小声の呟きと共に、彼女の周囲に無数の光球が生まれ、彼女を中心に渦を巻く。
突然の出来事に刺客の動きが止まった。そのまま近づくのは危険と判断し、手裏
剣を放とうとした。その時、渦の中のアリサが、ひたと刺客を見据えた。その顔
には、いつもの温かさは無かった。例えるならば、自然の最も峻厳な部分が擬人
化したような、そんな雰囲気をたたえていた。
「ひっ・・・！！」
その視線に射抜かれた刺客は、あるまじき事に悲鳴を漏らした。直後、アリサ
の周りを渦巻いていた光球が、一斉に刺客目掛けて流れ出した。
「わっ・・・」
光の奔流とでも言うべきものに飲み込まれた刺客は、何か声を上げたが、それ
はすぐにかき消えた。グローウォームも、彼に襲いかかった刺客も、動きを止め
てその光景に見入っていた。その視線の中で、刺客の身体は何かに打ち抜かれた
かのように震え続けた。
それが収まった時、周囲は沈黙に包まれた。それを打ち破ったのは、光から解
放された刺客が崩れ落ちる音によってであった。刺客は、死んでいた。
その事実にどのような反応を示したか、それがグローウォームと残り１人とな
った刺客の運命を分けた。事実に対する詮索を後回しにして、すぐそばの危険を
排除することにしたグローウォームは後ろに立つ刺客向けて剣を振い、逆に何が
起こったのか理解しようとした刺客は、その剣をまともに首に受けた。
首から上が切り飛ばされた刺客が倒れると、その場に残るのは少なからぬ返り
血を浴びたグローウォームと、何事もなかったかのようにたたずむアリサの２人
だけになった。
「アリサさん・・・」
グローウォームは、ほとんど無意識に相手の名前を呼んでいた。その呼びかけ
に、彼女は振り返る。悲しげな、寂しげな表情。そんな表情に、彼は戸惑いを覚
えた。
「見られちゃったわね・・・」
寂しげな呟き。反応に困ったグローウォームは、まず確認する事にした。
「精霊使い・・・なんですか？」
「そう・・・生まれついて目が不自由なせいかしらね。目に見えない、この娘達
の事を感じるの」
「・・・」
彼女の答えに、グローウォームは再び黙り込む。何とかして、今まで世話にな
った事に対する謝礼を述べて、この街から立ち去るつもりでいるのに、なかなか
言葉が出てこない。苦労して絞り出した言葉は、直接的な関連がまるでないもの
だった。
「アリサさん・・・俺の事を疎ましいとか思わないんですか？」
いっそ、頷いてくれれば気が楽なのに。そんな思いを込めての問いかけ。だが、
そんな期待はあっさりと砕かれた。
「どうして、あなたの事を・・・？」
「こいつらが襲ってきたのは、俺目当てですよ。それなのに、連中はアリサさん
まで殺そうとした・・・アリサさんは俺のとばっちりを受けたのに・・・」
「でも、こうして生きている」
「それは、アリサさんが精霊使いの力を持っていたから・・・」
少なくとも、自分の力で守れたわけではない。今回は、幸運に恵まれただけ。
そう思っていると、
「それじゃ、いけないかしら？」
「え？」
「何もかも、１人でやれる人はいないわ。やれない事は、他の人の力を借りても
いいんじゃないかしら？」
そんな一言に、グローウォームは弱々しく首を振った。それが正しいのは分か
っている。だが、他人の力を借りた時、その借りた相手を死なせるのではないか
という恐怖が、彼をためらわせていた。
「俺は・・・もう、俺のために誰かが死ぬのを見たくないんです・・・」
一歩後ずさる。近づくと、アリサもまた死んでしまうかのように。そんな彼に、
アリサはあっさりと言葉を返した。
「私は、そう考えるあなたが無茶をして死ぬんじゃないかと心配なの」
これに彼が反応を起こす前に、アリサが行動を起こした。
「！？」
彼女の行動に驚くグローウォーム。彼女は腕をのばして、彼を抱き寄せたのだ。
「お願いだから死に急がないで・・・」
「死に急いでなんて・・・いませんよ。ただ、誰かの犠牲の上に生き長らえさせ
られるのが嫌なだけです。生きるにせよ死ぬにせよ、自分の意志で、誰も巻き
添えにせずに・・・」
「何のために？」
アリサは正面から見つめながら問いただす。
「・・・」
「何のために、あなたは生きるの？」
その問いに、グローウォームは答えられなかった。３年以上前なら「仇討ちの
ため」と言えたであろう。だが、親を殺し村を焼き払った者達は殺し尽くした、
その後で気付いた。何をして生きるのか、という事に。死ぬ気にはなれなかった。
だが、目的も見つけられなかった。ただ執拗に彼を、正確には彼の持つ矛を狙っ
てくる者達を撃退し続けるだけ。それも自分の意志によってではない。死に際の
親の一言、「その矛を渡すな」、を守っての話でしかない。ある意味において、
グローウォームは今まで「単に生きていた」というだけの存在に過ぎなかった。
その事実を持つ彼は、アリサから目をそらせた。そんな彼に、アリサは穏やか
に続けた。
「もし、生きる目的が見つからないのなら・・・ここに居てくれないかしら？こ
の街にいれば、何か見つかると思うわ」
「アリサ、さん・・・けど、俺は・・・」
「この街に居る間、決してあなたを１人きりにはさせないから・・・だから、こ
こに居て・・・」
この言葉に、グローウォームははっとなった。それは、夢の中のアリサが言っ
たのと同じ言葉。そして、夢と同様、この一言に彼は絶対的な信頼感を覚えてい
た。だが、その一方で恐怖も覚えていた。それは、信頼感を覚える彼女を失う可
能性に対する恐怖であった。
「アリサ・・・さん・・・本当に・・・」
彼女の服をきつく握りしめる。離れるのを嫌がる子供のように。
「約束するから・・・だから・・・」
「アリサ、さん・・・」
グローウォームはもう一度、アリサの名を口にした。それが、６年前に失った
ものであるかのように・・・。
後書き
松です。「全ての始まり」中編をお届けします。前編から３ヶ月もかかってし
まった・・・。間にＳＳコンテストとか、夏コミとか、引っ越しとかが入ったと
はいえ、かかりすぎたな・・・。ラストの後編はもっと早く仕上げます；（と、
言って自分の首を絞める私）
あ、伏線、ほとんど解決してないような・・・；後編でちゃんと解決しますが
・・・う〜ん、間抜けだ、我ながら；
今回の山場は戦闘シーンとアリサさんの説得。上手く伝わるといいのですが・
・・。ちなみに、戦闘はまだまだ続きます（ついでに、どんどん死にます。刺客
達は十分強いのですが・・・まぁ後編で、証明しましょ）。
話が進むごとに量が増えますが、これは戦闘シーンのため。私が戦闘シーン
書くと、とんでもない文章量になるんですよ；
後編はどけだけかかることやら・・・
後編は・・・かの有名な幽霊さんと「おっさん」がご登場。ついでに、悠久本
編にかかわる伏線もきっちり書きます。
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松